大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和63年(ネ)2014号 判決 1989年2月27日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。控訴人が被控訴人の八〇〇〇株の株式を有する株主であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、次につけ加えるほか、原判決事実摘示及び当審における記録中の証拠目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一  控訴人

1  控訴人は、本件株券を所持しているから法律上の権利推定が働き(商法二〇五条二頁)、控訴人に株主権の帰属が推定される。したがって、被控訴人により右推定権利状態の発生原因の不存在又は推定権利状態と相容れない権利状態の発生原因が証明されない限り、右権利推定は覆されない。

2  商法二一〇条に違反する自己株式取得の無効は、譲渡人と譲受人の双方から主張できるものと解すべきである。

仮に譲渡人からの無効の主張が制限されるとしても、譲渡人を保護すべき特段の事情があるときは、譲渡人からの無効の主張を許すべきである。本件においては、控訴人は本件株式売買の適正な対価を得ていないこと、本件紛争は控訴人が株主として被控訴会社の経営適正化を目指して臨時株主総会開催を要求したことに端を発していること、控訴人は本件株式売買の無効を主張することにより投機を営むことを目的とはしていないこと、被控訴人も和解において本件株式の買受けを希望し本件売買の無効を実質的に認めていることなどの事情があるから、控訴人の本件株式売買無効の主張を許容すべき特段の事情がある。

二  被控訴人

1  本件においては原判決が認定しているように控訴人の本件株券占有による権利推定を覆すに足りる様々の事情がある。

2  自己株式取得禁止を定めた商法二一〇条違反を理由とする無効の主張は、譲受人である会社側にのみ認められるものと解すべきであり、その例外を認める余地はない。

仮に特段の事情がある場合には譲渡人からの無効主張が許されるとしても、それは会社側に非があるいわゆるインサイダー取引などの場合に限られるべきである。本件では被控訴人が利益を得ようとして取引をしたものでもなく、控訴人は本件売買により譲渡人としての適正な対価を得ているから、控訴人の無効主張を認めるべき特段の事情はない。

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないと判断するものであり、その理由は、次につけ加えるほか、原判決理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決書三枚目表二行目中「甲」の下に「第二号証、」を、同三行目中「結果によると、」の下に「栗原清と控訴人は昭和四一年三月被控訴会社を設立し建売住宅の分譲など不動産業を共同で営んできたこと、被控訴人は昭和四五年二月それまで未発行であった被控訴会社の株券二万株を発行し、栗原側が名義株を含めその六割の一万二〇〇〇株を、控訴人が四割の八〇〇〇株を取得したこと、」を、同行中「昭和四五年暮ころ、」の下に「被控訴会社の経営方針についての対立が原因で」を、同行中「辞任するとともに」の下に「本件株式を被控訴人に譲渡することとし」を、同四行目中「から」の下に「退職金及び株式譲渡代金の合計」を、同五行目中「株主として」の下に「利益配当請求権など」を加える。

2  控訴人は、本件株券を所持しているから法律上の権利推定(商法二〇五条二項)により控訴人に株主権の帰属が推定される旨主張し、被控訴人は、右権利推定は覆された旨これを争うので、この点について判断する。

<証拠>によると、被控訴人が昭和四五年二月に発行した株券二万株はその頃本件株式を含めて全部当時の被控訴会社の代表取締役栗原清に預託され、同人がこれを昭和五八年ころまで妻栗原静子をして自宅の押入内の茶箱に保管させていたこと、その間控訴人が自ら本件株券を保管したことはないこと、また、本件株式売買の当時も本件株券の保管状態に変化はなかったこと、栗原清は昭和五七年に生じた弟栗原正清との被控訴会社の経営を巡る紛争解消のための話合いが決裂した後、妻静子から本件株券を含む全株券を受け取り、控訴人を伴って控訴人訴訟代理人竹澤東彦弁護士の事務所を訪ね、同弁護士に右株券全部を預けたこと、栗原清は昭和六一年二月二二日死亡し、控訴人は現在右株券のうち本件株券を所持していること(この事実は当事者間に争いがない。)、以上の事実が認められ、右認定に反する<証拠>は採用しない。

以上の事実にさきに認定した事実を総合すると、被控訴人は昭和四五年暮ころ控訴人から本件株式の譲渡を受け簡易の引渡により本件株券の交付を受けたものということができ、その後、控訴人において本件株券を所持するについての正当な取得原因を何ら主張立証しない本件においては、控訴人が現在本件株式を所持していたとしても、本件株式の権利者の推定は働かないというべきである。

したがって、この点に関する控訴人の主張は理由がない。

3  更に、控訴人は、商法二一〇条(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)に違反する自己株式取得の無効は譲渡人と譲受人の双方から主張できるものと解すべきである旨主張するけれども、会社財産の充実を危うくすることを防ぎ、会社、会社債権者及び一般株主等の利益を保護するという同条の立法趣旨に鑑みると、同条違反を理由とする無効の主張は原則として会社側にのみこれを認めるのが相当であり、株式の譲渡人は、本来譲渡契約が履行されることによって契約目的を達することができるから、これによって譲渡人の正当な利益が害されるなど株式譲渡を無効として譲渡人を保護すべき特段の事情がない限り、譲渡人から株式譲渡の無効を主張することは許されないというべきである。

これを本件についてみると、控訴人は本件株式売買により譲渡人として正当な対価を得ており、本件売買後長期間にわたって株主としての権利を行使したことも、自己が株主である旨の主張をしたこともなかったことは、前認定のとおりであるから、本件株式売買を無効として控訴人を保護すべき特段の事情があるということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、譲渡人である控訴人は、被控訴人の自己株式取得を理由に本件株式譲渡の無効を主張することはできず、この点に関する控訴人の主張は採用に価しない。

二  そうすると、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって、これが取消しを求める本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松岡 登 裁判官 牧山市治 裁判官 小野 剛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例